AとBと君と僕

 

いつまでも途切れることのない

ずれたエイトビート

さながら僕たちの象徴

テンポキープが得意だった

いつまでも交わらず重ならず

追い越さず追い越されず

美しいメロディが隣で駆け抜ける

競争を、していたのはいつだっけ

形容しがたい感情が

言葉にならずに消えたとき

メロディは高らかに歌ってくれて

それでもとりこぼされてゆく

指先を滑り落ちてゆくときの

なんという美しさ、次の瞬間には霧散して

後には何も残らないその清々しさときたら!

言葉を尽くしても花束にしても

吐き出しても飲み込んでも無意味だった

少なくとも僕と君の間においては

僕らをつなぐものが言葉以外にある世界に

生まれなくてよかったと心底思う夜

交わらず重ならないずれたビートが

愛しいと思うよ、嘘じゃないよ。

 

 

 

 

慎重に塗った爪などつゆ知らず午前三時に指を絡める

 

君が流れ星を探して夜空を眺めるとき 

僕は暗がりに溶けるつま先ばかり見ていた

慎重に塗った指先の色は赤

自分のための赤が君のための赤に変わるとき

僕の足元は海月とともにたゆたっている

そんなことにも気づかない君に

繋いでほしいのは指じゃなくてからだだった

存在が不確かだからハイヒールと月面でステップを

その瞬間だけが僕を人間たらしめていた

人間かどうかわからない僕の隣で

隣にいるのかもよくわからない僕をおいて

君の心は宇宙に在る 

月面に取り残されて一人ぼっちの僕を

流れ星が追い抜いていく

午前三時は、ひどく静かだ 

 

 

 

 

惰性

義務感のみで水を飲む時、人間は一時停止。

煙草なんてあってもなくてもよかった。

酸素を吸うついで。その時君のことは一ミリも

頭をよぎることがないからどうか安心してほしい。

 

余計な言葉をいくつ交わしたところで

僕も君も交わらないのなんて百も承知だった。

どうしてと聞かれたら困るけど、惰性だよ。

 

沈黙に言葉を浮かべていると君は安心して

その度にわたしは不安になる。

「安」の応酬

ビジネスパートナー:フレンズ

大事にされなかった言葉たちが

投げられては足元に散らばる。

昼と夜と朝のこと、わたしはまだ許してなんかないのに。

許し。許しを請うのはわたしの方だったのかも

しれないよね、本当は。

許し合えなくてどこにも行けなかった。

 

水も煙草も酸素も呼吸も、会話でさえも

これからもきっと惰性で続いてゆくのね。 

 

 

せいかつの祈り

 

冬の記憶が鼻先を掠めたから冬

君のことばかり考えているふりばかり、冬

 

強力なお守りは言葉


 君のカナリヤになりたくて

なれなかった僕だけど

心の臓まで貫いて

どうか離さないでいてほしい

「生きていてもいいよ」って

何度も舌の上で転がしたっけ

いつまでもなくならないから

君の嫌いなミント味でも必要

「当方差し迫っております」

ゆるしてほしい、いつまでも

死ぬ瞬間までゆるしておくれ

カナリヤになれなくて

猫にも美少年にもなれない僕を

 

 

願ってばかり、朝までは

夜の消滅がひたひたと忍び寄る

音を消してもわかってしまうよ

何と言っても察しの良い女ですので

iPhoneの明かりに夜が溶けて

美しいと、形容するのは無粋かな

雨の音が窓に遮断される有能さに

嫌気がさしてくるよ、全く

 

せいかつ

やさしい日々と音楽と言葉と君と

ぼくのこと

幸福であればいいと祈りを捧げる、冬

 

 

煮るなり焼くなり

今週のお題「いい肉」

 

煮るなり焼くなり好きにして、

と身を任せたのはわたしだけど

まさか放置されるなんて思わないじゃない

そうして迎える四度目の冬も佳境

 

わたし、欲情したのはわたしだった 

幻のわたしと君と、

 

「愛を統一しなかった神様の失敗だよ」

 

神様のせいにでもしなければ

やってられなかったって

一グラムにも満たない軽い言い訳が

飛び交う軽いミントグリーン色の間柄

 

朽ちない記憶を抱えていたら

侵食されちゃって悲惨だわ

飲み込んだ言葉は体の底で

なまりみたいな色をしているし

テトラポッドの代わりに海で

有効活用するに限る、異論は認めません

 

愛にできることなんて

僕らにおいて一つもなかったね

 

優しいなんて言葉に騙された方が悪いのよ

 

こちとら生鮮なゆえに足がはやいので

「ごめんなさーい」も風の向こう 

今度はわたしが好きにする番

今日からロマンス宣言

 

かなしみは汚れてしまった

小雪も降りかかるいい感じの夜

時間は消滅して過去も未来も

お揃いを抱きしめている刹那

を、観測したのはわたしだけ

 

文句も届かないところ

思い出さなくてもいいところ

君の知らないところで全部ぜんぶ

思い出に、しちゃうんだから

 

煮るなり焼くなり好きにして

 

 

 

 

エンドロールの向こう側

 

音のない喝采にいつまでも耳をすませては

めでたしめでたし、の先を探している

繋ぎ止めた指先はどこへも行けないてのひらの中

真夜中君と歩いた渋谷センター街だけが

紛れなく世界の本物だったよ

朝の中に消滅した夜を探す明け方

喫煙所の横顔は月より綺麗で月みたく遠い

「南へバカンスしに行こうよ」

北に行くときはひとりだと決めているもの

フィルムカメラで切り取った記憶は

インスタントな思い出に早変わり

そうやってわたしも君も思い出にして行こうね

いつかの子どもがいつかの私たちに出会ったら

その時がハッピーエンドだよ

暗闇の途中で前を横切るもう二度と出会わない

人間の幸福を祈る五時間目

聞こえるはずのない喝采を浴びて

席を立ったら始まりの合図

さあ、準備はできた?

 

 

 

 

続・ロマンス詩

 

星みたく飛行機が飛ぶ明け方

厚底スニーカーとかぎなれた匂い

無理やり終わらせた煙草

火の粉が花火の終わりみたいだった

ここには思い出がひしめき合っていて

だから空ばかり見ている

 

 

座ることを想定されていない窓枠に

腰掛けて煙草をふかすとき

僕は宇宙に想いを馳せている

宇宙は僕のことを一ミリも考えてなくて

いてもいなくてもどちらでもいいという

その事実だけが存在しているから好きだ

窓をあけ放せば暗闇が滑り込んでくる

寂しさも悲しみも全て飲み込んでくれるから

安心して絶望できる、というのは

おかしいですか

 

宇宙から見れば全部一緒だよ

なんてちょっとさみしい僕ら宇宙人

 

 

傷の治りが遅いから大人

平気な顔はできるのに 

擦り傷だけがいつまでも膝に居座っている

時間なんて目に見えない

不確かなものにとらわれている

この世界の何もかもは不透明で不確かで

不確定だけれど神様、

僕はあなたと宇宙が一番近くて遠いと

思えるから人間でいて幸福だよ