夜景の詩


この世界にほんとうのことなんてひとつもなかった。
あるのは君とわたしの内側にあるびっくりするくらい
あたたかくて鮮明な赤い血と、
それから冬の冷たい空気とキラキラ。
季節が繰り返されていくたび
僕らはなぞっている錯覚をしているだけなんだよ、
君は知らないと思うけど。
記憶だって改竄されていくこの世界で
ほんとうのこともひとつだってなくて、
ねえでも君とわたしが生きているのと
冬の冷たい空気とキラキラだけが信じられるから
冬は好きだ。
君が好きだ。
わたしはわたしが好きだ。
冷えていく爪先が冬の空気に溶けていく。
冷えていく指先が君の手の温度に溶けていく。
つめたくてあたたかい。
生きているから、ほんとうのことがなくたって
君とわたしはきっと生きていけるのね。これからも。