冬の記憶が鼻先を掠めたから冬
君のことばかり考えているふりばかり、冬
強力なお守りは言葉
君のカナリヤになりたくて
なれなかった僕だけど
心の臓まで貫いて
どうか離さないでいてほしい
「生きていてもいいよ」って
何度も舌の上で転がしたっけ
いつまでもなくならないから
君の嫌いなミント味でも必要
「当方差し迫っております」
ゆるしてほしい、いつまでも
死ぬ瞬間までゆるしておくれ
カナリヤになれなくて
猫にも美少年にもなれない僕を
願ってばかり、朝までは
夜の消滅がひたひたと忍び寄る
音を消してもわかってしまうよ
何と言っても察しの良い女ですので
iPhoneの明かりに夜が溶けて
美しいと、形容するのは無粋かな
雨の音が窓に遮断される有能さに
嫌気がさしてくるよ、全く
せいかつ
やさしい日々と音楽と言葉と君と
ぼくのこと
幸福であればいいと祈りを捧げる、冬