断片綺譚

 

早朝、図書館は亡霊であふれている。

借りたい本は静かにそーっと抜き取ってね。

くもり空が湿度を上げていく

おみくじがつげる運勢

[お気に入りはカバンの底にしまうが吉。] 

 

雨が降る、教室の窓の外

まるで水槽の中にいるみたいな僕ら

「下校時間を過ぎています」

「息ができないので帰れません」

 

色とりどりの声が飛び交う校舎内で

唯一あなたの声だけは鮮明

理由は明確だけど曖昧にしておきたい

乙女は恥じらいを持っているのです

 

昇降口は蛍光灯に照らされて

妙に真昼の気分です

青い傘をさせば快晴

ピクニックと洒落込みましょう

 

歩く速度は雨粒と一緒

リズムをとってたん、とん、たん

ハナウタまじりの横顔は

君とわたしのおそろいその一

 

眩しいくらいの晴れだから

教室内は薄暗くて

ルーズリーフに綴る恋文

放課後わたしと遊びませんか

 

シャッターを切ったみたいな窓枠

もう何もかも美しく加工された過去

君が過去にいたらよかったなあ

 

音楽室は日向ぼっこ日和

眠たくなっちゃった

リコーダーのテスト

間違えたからやり直し

 

過去にはいつまでもいられないので

何度もやり直しを試みている

 

礼拝堂の甘い匂い

パイプオルガンの音にのせていた

わたしたちの祈りは

どこにいったんですか、先生。