一行小説

 

▽重たい水

「嫌い」

毒を飲むような感覚。

思っても、言っても、言わなくても。

 

▽蒸発した朝

空が青い。当たり前のことなのに、空が青い、

それだけで足取りが昨日より

100グラムほど軽くなる気がする。 

 

▽世界の真ん中

午前8時の電車、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた平日は日常。

 

▽無題

『つまりはそういうこと。』

彼女の口癖を聞くのはこれで最後だと、

気がついた時にはもう彼女は僕の目の前から消えていた。

 

▽別れはいつも突然に

朝。

ドアを開ければいつも嫌味ったらしく待っていた

冬は消滅して、代わりに春がいた。

 

▽残り香

飛び出した言葉は溶け出して、

あとには存在していたという不確かなナニカだけ。

 

▽トップシークレット

シャッターをを下ろした世界で、手を繋いで空を飛ぶ。

(内緒だよ)

 

▽断片的生活

煙草に火をつけるみたいな動作で

アルバムを燃やす彼女の後ろ姿を

ひたすらに眺めるしかなかった。

 

▽初夏の窓際

「入道雲の端っこだけ食べてもばれないと思うんだけど、

君はどう思う?」

 

▽逃避行ガール

ハイヒールで月の表面をスキップする。

 

▽小さな世界

ヒーローと冒険がない世界

なんて知りたくなかった。

何でもわかる世界で、

僕らはただじっと

息を潜めている。

 

▽キラキラの夢

ガラス瓶に詰め込んだ

真っ白な砂糖をすくって、

現実を甘くするのです。

 

▽反省文

真昼の月が寂しそうだったので、

おもちゃ箱に星を詰め込んでひっくり返しました。

 

▽ショート寸前

空模様がどうだっていいと思った時には大人になっていた。

 

▽嵐の前

満員電車の中は常識に縛られた怪物で満たされている。

 

▽水色の涙

何もかも歪んだ世界で、空だけは相変わらず青かった。

 

▽真理

綺麗にラッピングされた言葉より

思わず飛び出た言葉が愛しい。 

 

▽真っ赤

愛情と嘘が同じ色だとしたら、

一体何を信じればいいんだろう。

 

▽特別な午後

溶けかかったわたあめみたいな雨雲を

手のひらで包むとひんやりして、

ほんのり甘い匂いがした。

 

▽正義と道のり

「紫陽花は移り気だなんて花言葉があてられているけれど、

わたしに言わせれば賢くて強かな生き方だと思うわ。」

 

▽イレギュラー

或いは、カラフルが覆った僕らの日常。

 

▽愛

幸せなんていらないから、

貴方の痛みを頂戴。

 

▽青い春

教室は、半永久的な退屈を纏っている。

 

▽チョコレートの記憶

甘ったるい匂いもしわくちゃになった銀紙も

君の温度や感触まで再現してしまう。

幸せの味は苦い想い出。

 

▽残骸

愛は風船のように膨らんで破裂してしまった。

空に弾けた赤は美しい眺めだった。

 

▽30センチ

透明な水たまりに映る透明な世界は、

風に揺れると消えそうなほど儚い。

 

▽お気に入り

「君と僕の世界が重なればよかったのにね。」

何も入れてない珈琲をくるくるとかき混ぜる。

宙ぶらりんになってしまった言葉や

停滞している時間を誤魔化すみたいに。