一人遊び

 

「飛び跳ねる雨粒みたいな

君の笑い声が好き」

という君が好き

 

好きは目に見えないから

透明に違いないわと予想する深夜

 

透明になったつもりでビニル傘越しに

貴方をこっそり見つめる

 

拝啓 雨の神様

風邪などひかぬよう

傘を贈ります 敬具

 

風邪をひいたので一回休みのち

エスケープして、そのあとすすむ

 

進まない 進捗ダメです

ぬかるんだ 水たまりみたいなのにはまる

 

脱ぎ捨てたハイヒールには目もくれず

スキップで水たまりを越える

 

スキップで六月を飛び越えたなら

「お出口左ー、八月駅です」

 

八月の夏真っ盛りの晴天の

元で永遠の眠りにつきたい

 

永遠とエンドレスって似てる気がしたら

始まる終わらない夏

 

本日から冬は休暇のバカンスで

ただいま席を外しております

 

バカンスに誰もが出かけて空っぽな

オフィスで一人 アイスを食べる

 

溶けかけのアイスみたいな日常が

いつか恋しくなるのねきっと

 

キンキンに冷えた空気が恋しいと

夏の青空 横目に思う

 

どうせ冬には反対のセリフを

つぶやく君を想像する昼

 

つぶやいた

おやすみさんかくまたきてしかく

キャンディが溶けきる前に

 

 

 

 

 

 

 

 

絵空事

 

 

小さなバッグにリップをしのばせて

お気に入りのワンピースで、

真夜中の海が見たかっただけ

 

そう言ったら君はなんて言うかな

きっと興味のなさそうな

笑顔を見せてくれるんだろうな

真夜中の海に取り憑かれたように

わたしの頭にはさざ波が寄せては返す

海、うみ、ウミ。

瞬間、わたしの身体中の

水分という水分はしょっぱい水に変わり

そしてあふれた水は、甘くて塩からい

終電なんてとっくになくなった夜更け

君が散歩しようなんて言い出した

ばかなんじゃないの、と思いながら

バッグにリップをしのばせて、

お気に入りのワンピースで

向かったわたしは乙女ですか

 

君は海のようだ

晴れた日の笑顔

真夜中にうごめく未確認生命体、

そして起き抜けの、まだ活動前の静かな時間

真夜中の海に行きたい、真夜中の君に会いたい

まだ誰にも見せたことのない、真夜中の君が永遠に

わたしだけのものであったらよかったのに

 

「おれ、めっちゃ好き」

単価の安くなった好きに少しの価値もないけれど

「わたしも」

好きなんて言葉に一ミリも意味がないなら生きる価値がない

「好き、だよ」

仕方ないから今日もひらりと紙一重

「もうそろそろ帰るかあ」

空が白んだら終わりの合図

朝帰りだからシンデレラにはなれないのかな

「そうだね」

つま先、君だけに見せる真紅の爪

君はそんなこと、ちっとも気がつかないで

私に背を向けて伸びをした

その背中と海がやけに

ノスタルジックに見えるから早朝は嫌い

砂浜を歩いたサンダルが泥まみれ、嫌い

ついでに剥げかけたネイルも

私を好きになんかならない君も、嫌い

 

本当は好きにも嫌いにも意味なんて

なかったらよかったね潮風つよいなあ

 

 

真夜中の君が永遠に、わたしだけのものであったら、

真夜中が永遠に続いたら、

朝なんか来なければ、

 

君は何処に。

 

 

 

東京

 

一、東京 

東京に来てからもうまる二年が経とうとしている

地元広島よりもはやいスピードで走る山手線、

慣れない構内アナウンス「JR東日本」、

たくさんの人が行き交う渋谷のスクランブル交差点、

恐れていた新宿での待ち合わせ、

あふれているおしゃれなカフェは人が多くて

カフェ難民になることもめずらしくなくて、

 

  

はやく人並みになって、

大人になりたかったはずなのに

生きるたびに何かが死んでいく

そうか、何かを犠牲にしてここにいるのね

 

いつまでも手の届かないものに焦がれている

 

 

二、映画

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

 

雨の降る渋谷のど真ん中の映画館で

友達と一緒に見た

映画には触れないで

「雨、すごいね」

とだけ言った

 

最果タヒの本はその中身よりも帯だった

松本隆の言葉が帯にあるなんて

贅沢だと思いながら友人と自分に

二冊買ったのを記憶している

思えば人に本を買ったのはあれが初めてかもしれない

 

松本隆がその昔、はっぴいえんどというバンドで

詞を書いたりドラムを叩いたり

していたのはもうずいぶん前のことで

今の時代東京に路面電車は見る影もなく

紙芝居屋が店を畳んだ後の狭い路地裏事情や

モンモンモコモコの夏の風景や

フィルム映画のようなざあざあ雨なんて知る由もなく

もうそこにはない手の届かない風景に

強く、焦がれていた

 

「夜空はいつでも最高密度の青色だ」

あれはきっと渋谷で見ることに意味のある映画だった

渋谷を知らない女子高生の私じゃなくてよかった

 

 

三、

「東京というタイトルの歌は名曲が多い」

とは、誰の言葉か忘れてしまったけれど

 

貴方に出会えたこの街の名前が東京なら、

結ばれないまま日々消費していく舞台の名前も東京だ

 

いくつ歌を歌っても届かないのは自分のせい

「冬が寒くてよかった」

「連れていってあげるから」

「気づいてないふりをやめて」

「ずっとなんてないのよ」

それ以上もそれ以下にも意味はないと

思い知った日に煙草を吸った

思ったよりおいしくもまずくもない

想像通りの味とそれは

完全に一致した

 

歌い始めたきっかけも

煙草を吸い始めたきっかけも

とびっきりロマンチックなのがいい

 

でも白馬の王子様なんていない

現実ってこんなもの

つまらない顔で

つまらない大人になって、

つまらない言葉をはいている

 

君へ

好きでもない煙草を吸っている間

どうしようもなく君のことばかり考えています

 

 

四、タイムカプセル

拝啓十二歳の私 二十歳の私は元気です

東京で暮らしています

今の貴方とは考えられないくらい

性格は変わっていることでしょう

緊張すると赤くなる癖や泣き虫なところは変わりません

正しいことをすることが

正しいことを言うことが

いつも正しいとは限らないことを知った時

貴方はきっと過去を消したくなるでしょう

でも今となっては失われた向こう見ずなまっすぐさ

恐れを知らない思い切りの良さが

少しだけ羨ましくもあるのです

戻りたいとは思わないけれど

貴方の人生が、これからも幸福でありますように 敬具

 

 

五、記憶

窓枠いっぱいに広がる桜、

屋内プールの温度と空気、

映画のワンシーンみたいだった、秋の空の下のベンチ、

コートと同じくらいの短さのスカート。

礼拝堂の甘い匂い、

外階段で覚えた英単語、

バッグいっぱいのお菓子、

どれもこれも記憶は上書き保存です。

思い出すたび美しくなることが、

少しだけさみしくて、かなしくて、

その気持ちが一層、

美しさに拍車をかけているのかもしれません。

 

 

 

とびっきりのハッピーエンドを

僕らはいつだって待っている。

おやすみ、続きは夢の中で。 

 

断片日記

 

 

『この雑誌ください』

 

本屋ではなくコンビニで雑誌を買うのは二回目で

 

いつもプリンとかスナック菓子を買ってるから

 

雑誌を買うのはちょっと変な感じだった

 

裏側に向けて置いた時、裏表紙が好きだと思った

 

  * * *

 

五分に一回は液晶画面を見ている

 

無言の圧力をかけている眼球の疲れ

 

コンタクトのせいでも寝不足のせいでもないってこと

 

きっと昔からもう気づかないふりしてる

 

  * * *

 

世界が冷凍庫の中に押し込められたみたいだ

 

何日経ってもそこかしこで溶けきらずに滞在するゆき

 

三日目にはツルツルで固まって、

 

ギュって音もふわって感覚もない

 

昔の好きって気持ち(賞味期限切れ)と同じね、きっと

 

  * * *

 

夕焼け空が窓の外側に見える

 

窓際、寒いと思ったら加湿器だった

 

  * * *

 

方向性は間違ってないよ

 

って返事がきた時に確信した

 

私もうこの人のこと

 

好きのままじゃいられなくなっちゃった

 

 

  * * *

 

 

好きなことと楽しいことと

 

必要最低限やらなきゃいけないこと

 

これだけを目標に今年もハッピーに生きていけますように

 

 

 

下手くそな愛し方

 

わるいことなんてひとつもしてないけど

いいことも同じくらいしてないから

毎日おばけみたいな顔で息をしている

眠たげな眼差しと黒髪ロングでアンニュイを演出

嫌いなあの子を好きなわたしの好きな貴方が嫌いです

「はやく何処かへ消えてよごめん嘘」

 

君に今好きって言いたい月も見えない真夜中

たばこの煙がゆらいで消える

煙に巻かれてる間だけ君の隣にいられた錯覚

幻想 幻 夢

 

好きの二文字を言いたくて

言えないまま好きの周りを

ぐるぐる ぐるぐる

「遠回り?」「散歩です」

勇気がないから文句も言えないな

「ばかなんじゃないの」「ばかだよ」

無色透明無味無臭

愛してるから愛してほしい

「月が綺麗だね」「知ってるよ」「そっか」

何にも知らないくせに、を飲み込む

言いたかったことの半分も伝わらないし

言えなかったことの半分以上は

誰にも知られないままに消滅していく

本当に伝えたいことだけは

うまく伝わらないようにできていると

野田洋次郎が言っていたので

今日はもう寝ようかな

 

どうでもいいやなんだって

さよならさんかく またきてしかく

もう二度と交わらないかもしれないね

 

好きも嫌いも言えない世界の隅っこ

行き場のない愛が今日も陽の光に透けて

何もなかったみたいな風景

それでいい それがいい 

おしまい 

 

 

愛を込めて

 

文庫本の隙間に潜む懐かしい匂いの存在に気づいた時、

大丈夫、君の体はまだ呼吸をしているよ。

言葉をたどる行為は世界から切り離される行為、

いいや、君が世界から離れる行為だ。

 

ペトリコール。雨降りの街の匂い。

同じ空間にいても同じ感情を共有するかどうかは、

君とわたしの相性のみの問題なんだよ。

 

「つまりは、」なんて芝居がかった君の台詞。

映画を見るみたいぼんやり遠目に眺めている時、

君の眼の前にわたしはいないけれど、

おそらくそんなとこにも気がついてない君が

愛おしくてかわいくて、永遠に僕らは平行線だ。

 

かわいいと口にする時、

かわいいという言葉は少しずつ死んでいく。

わたしも少し、死んでいく。

君はそんなことにも知らないまま。

 

そのままでいてね、

わたしと交わらないまま

一点の交わりもないまま

君はそのまま死んで欲しい。

 

ハルカカナタで息をする君が、

永遠の幸せと、大量の絶望と、

キラキラの夢とにまみれていることを願います。

 

  

 

朝食について

お題「朝ごはん」

 

 

一緒に暮らすなら、

おいしい朝ごはんを作ってくれる人がいい。

 

 

贅沢な暮らしをしたいと思う。

それは駅近の綺麗で広いマンションに住みたいとか、ブランドものを日常的に使いたいとか、毎日着ても着足りないくらいたくさんの流行りの服に囲まれたいとか、そういうことではなくて。

例えばそれは夕焼けを見ながら歩く帰り道、目的地のない真夜中の散歩、あるいは着心地のいい部屋着、そしてお気に入りの食器で食べる、とびっきりの朝食なのである。

朝は何かと忙しい。特に一人暮らしをしてから、ご飯というものを粗雑に扱う日々だったりする。おいしいものは好きだけれど、自分が食べるためだけに毎日おいしいご飯を作るのは至難の技だ。朝ごはん。それは優しいお味噌汁の匂いと炊きたてご飯、そしてふわふわのだし巻き卵、もしくは淹れ立ての珈琲とバターを焼き付けたトースト、そして少し歪で愛おしい形の目玉焼き。

僕ら(というのはつまるところ大人と言われる年頃の人たちに限定している)はご機嫌に生きることが使命だと誰かが言っていた。わたしは朝食の時間がおいしく幸せに過ぎればご機嫌に一日を過ごすことができる気がするし、きっとこれはわたしに限った話ではない。おいしい朝食は、毎日の朝を特別なものにする力を持っている。

 

***

もし朝が、おまえより先に走り出してしまったら、おまえはもうとても追いつけない。とっくにし終えているはずの仕事に時間をとられて、いつのまにか終わってしまうんだ。

***

 

これはマイケルドリス「朝の少女」の一節である。そう、朝というのは幻みたいなものだ。その存在は儚く、目を瞑っているうちに一瞬で過ぎ去ってしまう。後ろ姿を追いかけなくて済むように、僕らは目を覚ました瞬間に、朝を見つけ出すとこから一日を始めなくちゃならない。

 

話を朝食に戻そう。

僕らがご機嫌に過ごすことの一つに朝食は大きな意味を持っている。少なくともわたしにとっては。朝の澄んだ空気を楽しめることは何よりも贅沢で、さらにおいしいホットケーキなんかあったらそれはもうハッピー。単純で食い意地が張ってるやつだと思われるかもしれない。単純でもいい。僕らの大半の人は、人生を続ける選択しかできない。単純明快な思考回路で、幸せを感じている方がよっぽど楽しく、人生儲けもの、というわけである。