呼吸

 

 

夏の夜は水の中

 

静かで、穏やかに横たわる暗闇

 

無意味になってしまった足元、スニーカー

 

すべては夏のせい

 

「好きって言って」「嫌いじゃないよ」

 

深夜2時押せなかった電話のボタン

 

複雑そうに見えてショートしただけの思考

 

騙すなんて簡単、大人だもの

 

「つまんないなあ」

 

愛想の悪い女より愛想の悪い私が通ります

 

空、電線と平行線で泳ぐ魚 交わらない夏

 

影の中は君と僕のふたりだけ

 

帰り道溶けかかったアイス、水玉模様

 

「わたし流れ星になるために、ベッドで宇宙を漂います。」

 

夜明けの街は5秒だけ時が止まるんだって

 

知ってる? 知らない そっか そうだよ

 

傾いた水槽でする浅い呼吸

 

さよならさんかくまたきてしかく

 

あ、飴玉なくなっちゃった

 

おやすみこわい夢に別れを告げて

バイバイじゃあね、また明日。

 

言葉遊び

 

東京の月は、夜でも寂しそうだね。

 

夜の海は、昼間のそれとは別モノ。

 

昼間、アスファルトにのびるねこ。

 

雨が降りはじめたアスファルトの匂いがすき。

 

好きって言葉、重くも軽くもなくてすき。

 

言葉には程よい質量が備わっているのです。

 

備えつけの暖炉の前で夜中に前髪切りたい。

 

「2センチ切るからかわいいと言って。」

 

かわいいに取り憑かれたおばけ。

 

「おばけっていると思う?」

 

思ったことが口から飛び出す。

 

唇の赤って愛と嘘、どっちかな。

 

どちらか悩んだ時点でどっちでもいい。

 

いい加減、良い加減。

テキトー、適当。

 

 

 

一行小説

 

▽重たい水

「嫌い」

毒を飲むような感覚。

思っても、言っても、言わなくても。

 

▽蒸発した朝

空が青い。当たり前のことなのに、空が青い、

それだけで足取りが昨日より

100グラムほど軽くなる気がする。 

 

▽世界の真ん中

午前8時の電車、ぎゅうぎゅうに詰め込まれた平日は日常。

 

▽無題

『つまりはそういうこと。』

彼女の口癖を聞くのはこれで最後だと、

気がついた時にはもう彼女は僕の目の前から消えていた。

 

▽別れはいつも突然に

朝。

ドアを開ければいつも嫌味ったらしく待っていた

冬は消滅して、代わりに春がいた。

 

▽残り香

飛び出した言葉は溶け出して、

あとには存在していたという不確かなナニカだけ。

 

▽トップシークレット

シャッターをを下ろした世界で、手を繋いで空を飛ぶ。

(内緒だよ)

 

▽断片的生活

煙草に火をつけるみたいな動作で

アルバムを燃やす彼女の後ろ姿を

ひたすらに眺めるしかなかった。

 

▽初夏の窓際

「入道雲の端っこだけ食べてもばれないと思うんだけど、

君はどう思う?」

 

▽逃避行ガール

ハイヒールで月の表面をスキップする。

 

▽小さな世界

ヒーローと冒険がない世界

なんて知りたくなかった。

何でもわかる世界で、

僕らはただじっと

息を潜めている。

 

▽キラキラの夢

ガラス瓶に詰め込んだ

真っ白な砂糖をすくって、

現実を甘くするのです。

 

▽反省文

真昼の月が寂しそうだったので、

おもちゃ箱に星を詰め込んでひっくり返しました。

 

▽ショート寸前

空模様がどうだっていいと思った時には大人になっていた。

 

▽嵐の前

満員電車の中は常識に縛られた怪物で満たされている。

 

▽水色の涙

何もかも歪んだ世界で、空だけは相変わらず青かった。

 

▽真理

綺麗にラッピングされた言葉より

思わず飛び出た言葉が愛しい。 

 

▽真っ赤

愛情と嘘が同じ色だとしたら、

一体何を信じればいいんだろう。

 

▽特別な午後

溶けかかったわたあめみたいな雨雲を

手のひらで包むとひんやりして、

ほんのり甘い匂いがした。

 

▽正義と道のり

「紫陽花は移り気だなんて花言葉があてられているけれど、

わたしに言わせれば賢くて強かな生き方だと思うわ。」

 

▽イレギュラー

或いは、カラフルが覆った僕らの日常。

 

▽愛

幸せなんていらないから、

貴方の痛みを頂戴。

 

▽青い春

教室は、半永久的な退屈を纏っている。

 

▽チョコレートの記憶

甘ったるい匂いもしわくちゃになった銀紙も

君の温度や感触まで再現してしまう。

幸せの味は苦い想い出。

 

▽残骸

愛は風船のように膨らんで破裂してしまった。

空に弾けた赤は美しい眺めだった。

 

▽30センチ

透明な水たまりに映る透明な世界は、

風に揺れると消えそうなほど儚い。

 

▽お気に入り

「君と僕の世界が重なればよかったのにね。」

何も入れてない珈琲をくるくるとかき混ぜる。

宙ぶらりんになってしまった言葉や

停滞している時間を誤魔化すみたいに。