愛を込めて

 

文庫本の隙間に潜む懐かしい匂いの存在に気づいた時、

大丈夫、君の体はまだ呼吸をしているよ。

言葉をたどる行為は世界から切り離される行為、

いいや、君が世界から離れる行為だ。

 

ペトリコール。雨降りの街の匂い。

同じ空間にいても同じ感情を共有するかどうかは、

君とわたしの相性のみの問題なんだよ。

 

「つまりは、」なんて芝居がかった君の台詞。

映画を見るみたいぼんやり遠目に眺めている時、

君の眼の前にわたしはいないけれど、

おそらくそんなとこにも気がついてない君が

愛おしくてかわいくて、永遠に僕らは平行線だ。

 

かわいいと口にする時、

かわいいという言葉は少しずつ死んでいく。

わたしも少し、死んでいく。

君はそんなことにも知らないまま。

 

そのままでいてね、

わたしと交わらないまま

一点の交わりもないまま

君はそのまま死んで欲しい。

 

ハルカカナタで息をする君が、

永遠の幸せと、大量の絶望と、

キラキラの夢とにまみれていることを願います。

 

  

 

朝食について

お題「朝ごはん」

 

 

一緒に暮らすなら、

おいしい朝ごはんを作ってくれる人がいい。

 

 

贅沢な暮らしをしたいと思う。

それは駅近の綺麗で広いマンションに住みたいとか、ブランドものを日常的に使いたいとか、毎日着ても着足りないくらいたくさんの流行りの服に囲まれたいとか、そういうことではなくて。

例えばそれは夕焼けを見ながら歩く帰り道、目的地のない真夜中の散歩、あるいは着心地のいい部屋着、そしてお気に入りの食器で食べる、とびっきりの朝食なのである。

朝は何かと忙しい。特に一人暮らしをしてから、ご飯というものを粗雑に扱う日々だったりする。おいしいものは好きだけれど、自分が食べるためだけに毎日おいしいご飯を作るのは至難の技だ。朝ごはん。それは優しいお味噌汁の匂いと炊きたてご飯、そしてふわふわのだし巻き卵、もしくは淹れ立ての珈琲とバターを焼き付けたトースト、そして少し歪で愛おしい形の目玉焼き。

僕ら(というのはつまるところ大人と言われる年頃の人たちに限定している)はご機嫌に生きることが使命だと誰かが言っていた。わたしは朝食の時間がおいしく幸せに過ぎればご機嫌に一日を過ごすことができる気がするし、きっとこれはわたしに限った話ではない。おいしい朝食は、毎日の朝を特別なものにする力を持っている。

 

***

もし朝が、おまえより先に走り出してしまったら、おまえはもうとても追いつけない。とっくにし終えているはずの仕事に時間をとられて、いつのまにか終わってしまうんだ。

***

 

これはマイケルドリス「朝の少女」の一節である。そう、朝というのは幻みたいなものだ。その存在は儚く、目を瞑っているうちに一瞬で過ぎ去ってしまう。後ろ姿を追いかけなくて済むように、僕らは目を覚ました瞬間に、朝を見つけ出すとこから一日を始めなくちゃならない。

 

話を朝食に戻そう。

僕らがご機嫌に過ごすことの一つに朝食は大きな意味を持っている。少なくともわたしにとっては。朝の澄んだ空気を楽しめることは何よりも贅沢で、さらにおいしいホットケーキなんかあったらそれはもうハッピー。単純で食い意地が張ってるやつだと思われるかもしれない。単純でもいい。僕らの大半の人は、人生を続ける選択しかできない。単純明快な思考回路で、幸せを感じている方がよっぽど楽しく、人生儲けもの、というわけである。 

 

 

夏の風景

 

のたりとした夜の空気

街灯に照らされる夜道

車道と歩道を分ける白線の上

水滴がつたう左手の缶ビール

 

ぽたり、ポツリ、つぅー

 

現代版ヘンゼルとグレーテル

はじまり、はじまり〜

 

 

深夜零時、瞬間1.2倍速する秒針

カチカチ カチカチ

迎えに来て欲しい私シンデレラ

 

「もしもし、今すぐ来て」

 

 

あなたが好きだと言ったから 

受け入れた現実が蝕んでいく

その様、まるで毒林檎

白雪姫は王子様のキスで目覚めるけれど 

貴方は王子様じゃないから

何度キスしてみたところ、で

 

「目覚めることはできません」

「夏のせいだよ」

 

 

罪ばかり押し付けられていく夏

大セール、休暇のための言い訳100

不幸な顔してる暇があったら

美味しいものを食べて寝るに限ります

 

「君って楽しそうだよね」

「そう見える?それはよかった」

 

ご機嫌に生きることこそ僕らの使命

 

 

夏休みのスピードは打ち上げ花火

うすらぼんやり残る残骸

朝焼けと夕焼け、同じ温度

昼過ぎの教室内は外よりくらい

窓枠がシャッターを切る入道雲

青と白のコントラストが綺麗です

近くて遠くて、

「誰も見てない今のうち」

 

君の隣で息をする五時間目

好きな一文を書きぬいたルーズリーフ

毎日渡すね数学の時間

鮮明に思い出すたび不鮮明になる思い出

 

「それって告白?」

「だとしたらどうしますか?」

 

 

愛を語る方法を、僕らは探している

 

 

 

「愛しています」 

 

「真偽のほどはいかほどに」

 

「貴方に珈琲を淹れる手間を惜しみません」

 

 

 

最後の日

 

世界で君と僕だけ生き延びてしまったみたいな夜の街 

深海魚みたい するりするり泳ぎ歩く僕ら

海の底から見る月とよく似た

都会のビルの海の底から見る月

真夜中の交差点で乾杯をしようぜ

静寂になったら夜道戻る、戻る、戻る、、、 

 

 

長いこと息をして、吸収して、溶け込んで、

昨日より世界に馴染んでいるはずの今日のわたし

居心地が悪くて眠れずに何度も寝返りを打っては

薄青の朝を迎えるまぶたの向こう側

 

 

なんでも知ってるよ世界

誰もが神様みたいな錯覚、錯覚、錯覚

知ってるものばかり増えているはずなのに

知らないものばかり足元にまとわりつく

声だけが矢の如く駆け抜ける誰もいない昼下がり

みんな幽霊になって半透明に揺らいでいる

僕の「助けて」も 君の「愛してる」も

勇気を出した「ごめんね」も

息を潜めてしんとした 元からいない顔をして

 

 

君にはどうしても

「バイバイ」でも「またね」でもなく

「さよなら」を言いたい

 

永遠に六月がよかったけれど、左様ならば仕方ない

 

 

 

アナウンス

 

 

▽流星群

流れ星と衝突する事故発生率が高くなります。

速やかに電気を消し、また本日のベッドでの

宇宙散歩はお控えください。

 

▽雨の日

気分が大幅に沈み苛立ちや焦り、

人によっては頭痛の恐れがあります。

鞄の中にチョコレートをお持ちの上、

お気に入りの傘の使用を推奨いたします。

 

▽喫茶店の特別メニュー

あまりの美味しさにほっぺたを落としてしまう方が

多くいらっしゃいます。皆さまお帰りの際には

お忘れ物にご注意くださいませ。

 

▽昼下がりの五時間目

抗えぬ眠気に襲われる高校生が多発しています。

春風と窓際の陽だまりに注意してください。

 

▽眠れない夜

本日は羊が大量発生する恐れがあります。

小さなみなさまはホットミルク、

大きなみなさまはホットワインを片手に

暖かい布団へ速やかに入ることをお勧めします。

 

 

 

 終わり

 

 

 

呼吸

 

 

夏の夜は水の中

 

静かで、穏やかに横たわる暗闇

 

無意味になってしまった足元、スニーカー

 

すべては夏のせい

 

「好きって言って」「嫌いじゃないよ」

 

深夜2時押せなかった電話のボタン

 

複雑そうに見えてショートしただけの思考

 

騙すなんて簡単、大人だもの

 

「つまんないなあ」

 

愛想の悪い女より愛想の悪い私が通ります

 

空、電線と平行線で泳ぐ魚 交わらない夏

 

影の中は君と僕のふたりだけ

 

帰り道溶けかかったアイス、水玉模様

 

「わたし流れ星になるために、ベッドで宇宙を漂います。」

 

夜明けの街は5秒だけ時が止まるんだって

 

知ってる? 知らない そっか そうだよ

 

傾いた水槽でする浅い呼吸

 

さよならさんかくまたきてしかく

 

あ、飴玉なくなっちゃった

 

おやすみこわい夢に別れを告げて

バイバイじゃあね、また明日。

 

言葉遊び

 

東京の月は、夜でも寂しそうだね。

 

夜の海は、昼間のそれとは別モノ。

 

昼間、アスファルトにのびるねこ。

 

雨が降りはじめたアスファルトの匂いがすき。

 

好きって言葉、重くも軽くもなくてすき。

 

言葉には程よい質量が備わっているのです。

 

備えつけの暖炉の前で夜中に前髪切りたい。

 

「2センチ切るからかわいいと言って。」

 

かわいいに取り憑かれたおばけ。

 

「おばけっていると思う?」

 

思ったことが口から飛び出す。

 

唇の赤って愛と嘘、どっちかな。

 

どちらか悩んだ時点でどっちでもいい。

 

いい加減、良い加減。

テキトー、適当。