戦闘態勢

 

剥がしたマニキュアの下に隠れた生々しい爪、案外滑らかで美しかった。目元にたくさん散らしたラメだってかわいい色のカラコンだって森や風や川の前には何の意味も持たない、都会のせいで僕らは戦闘能力が上がっているのだ、都会のおかげで、都会のせいで!

 

さんかくになった気持ちをまるめるために日々を転がり落ちながら機嫌をとっている、ご機嫌でいることこそ大人の使命!だというのに世の中に大人って何人くらいいるんでしょうね、満たされた生活。

 

生活って美しい、脱ぎ捨てた衣服は花びらのよう、雑に積み上げられた本、忘れないようにままへのプレゼントを書いたメモ、SpotifyAmazon primeしか再生しないMacBook Pro、光のささない部屋。

 

暮らしにはリズムがあって、崩れるとわたしは悲しくなる。声を発してお気に入りの本を読み、言葉を書いたって押し寄せる悲しみはさざなみ。寄せては返す、わたしの意図とは別に。

 

ばかみたいにあまくしたアイスコーヒーを手持ち無沙汰にかき混ぜる。灰皿に山盛りになった吸い殻。ラメを散らした親指が目に入る。戦闘能力。

 

ヒールの高い靴も、歩きやすい靴も、選んで身につけたという事実がわたしを強くする。生きていくということ。思えば気に入ったものを集めるのが生きることの醍醐味だ。

 

欲しいものなんてひとつもなかったガラクタばかりの世界で唯一たしかなものを探すわたしの隣、君は笑って「だから作った」というその強さ!強かに美しい僕達の生命は燦然と燃え輝いていること、君の隣にいるとついつい思い出してしまう。

 

生命力を前にしては武器を持てないのだ、俺たちは。わかったら命を燃やせ。

感傷的意思表明

 

どこにもいけないわたしとともにわたしはずっとここにいた。あの子もあいつも君もみんな何処かへ行ってしまう、大多数に優しい世界を少数派で生きるので褒められたいたいたいたくない?ねえ、空を飛ぶ方法を探している。

足踏みばかりしていたらいつのまにかリズムが出来上がってdon!don!pa!ろっきゅー!なーんて言いながらこの世界にいない貴方のことを今夜ばかりは思っていたい。そちらはどうですか。2人で声をあげているその仲間に近い遠い未来によろしくお願いしてもいい?

枯渇した、枯渇しているまんま声を発しているわたしはどう目に映るの、お茶を飲もうよ、ギターも弾こうよ、あの頃よりきっとうまくなったよ、あの頃より素敵になったよ、いろんな話がしたかった、わたしのことを見て欲しかった、歌を聴いて欲しかった、友達になりたかったけどきっともう友達だったんだと勝手に思っている。

血の通った身体が憎らしい、今日のわたしが死んでゆく様をただ眺めている。真夜中に溶け込むわたしの境界線が曖昧になることにひどく安心感を覚えて爪先立ちで歩いている。柔らかい毛布にいつまでも爪を立てるのはやめにして、愛してあげたいだってこの世界で一番優しいから。

 

優しさと毛布と愛と夜はコーヒーとおなじ重さをしている。

世界、まとめて愛してやんよ。

夜景の詩


この世界にほんとうのことなんてひとつもなかった。
あるのは君とわたしの内側にあるびっくりするくらい
あたたかくて鮮明な赤い血と、
それから冬の冷たい空気とキラキラ。
季節が繰り返されていくたび
僕らはなぞっている錯覚をしているだけなんだよ、
君は知らないと思うけど。
記憶だって改竄されていくこの世界で
ほんとうのこともひとつだってなくて、
ねえでも君とわたしが生きているのと
冬の冷たい空気とキラキラだけが信じられるから
冬は好きだ。
君が好きだ。
わたしはわたしが好きだ。
冷えていく爪先が冬の空気に溶けていく。
冷えていく指先が君の手の温度に溶けていく。
つめたくてあたたかい。
生きているから、ほんとうのことがなくたって
君とわたしはきっと生きていけるのね。これからも。

 

夏生まれの詩


まばゆいひかり
歓声とざわめきとさざなみ
火傷しそうなアスファルト
ひんやりしたフローリング
美しくて力強い夏
うだるような熱気
わたしはカラフルなアイスクリーム
わたしはスパイスの効いたチョコレート
わたしはしょっぱいバター
溶けないように生きのびて
ここまで雲をけちらし
快晴を泳いできたわけです


拝啓生まれたばかりのわたしへ
貴方のいた夏はどうですか

 

ひびずれてゆく痛みについて

 

どこを見渡してもチープな言葉ばかり

辟易としてしまうなあ世界

丁寧にざっくばらんに巻かれた毛先5センチの

傷んだ髪の毛みたいなものだ、いまのわたし

それかまふゆだからと剥げかけ爪先のネイル

を、見えないんだからと切り捨てた

切り捨てられたものたちを

ひとつひとつ顕微鏡で覗き込んだら

きっとわたしと同じ色をしている

 

曖昧でけれど確かに生まれてしまった

ひびやずれをどうにかないことにしてしまいたかった

もとより存在しないことにして

もとより続く美しく傷ひとつない関係を

永遠にひきのばしていたかった

 

夜は孤独の匂いがする

静かでさみしくていい匂いがする

君のぞんざいな(わたしにとっての)

言葉が入る隙など1ミリもない

 

サブカルチャーが滅んだって」「今はエモーショナルでしょう」「次はハリケーンとかがいいなあ」

 

いつまでも形のないものに翻弄されている

そこに魂が宿ると信じている

でもそれと魂のずれは

わたしには見えない

貴方にも気づかないとしたら

 

僕らの運命的すれ違いは、

神さましかしらない。

羽虫と月

 

 わたしが愛したのはそのひとだったのか、

 才能だったのかを考えている。強い光に惹

 かれる小さな羽虫だ、わたしは。

 

  「愛が才能に惹き寄せられるのは恋でなくて、

   そのひとそのものに惹き寄せられるのが恋だ

   として先輩が言っていた通りだったとして、

   そのひとはいったいなにで構成されているの

   か教えていただいていいですか。」

信仰を葬る前に

 

 変わらないものが存在しないことを

 嘆いたわたしもまたいともたやすく

 変わってしまう存在であることを嘆

 くまよなか午前2時。敬愛し信仰対象

 だったはずのひとや過去のわたしを

 すくってくれた子の言葉が届かなく

 なってしまったことかなしくてさみ

 しくて散り散りになっている。言葉。

 何もかもが投影されるようでそんなこと

 ひとつもないのかもしれなかった、でも

 そうしたら君やわたしの信じた何もかも

 崩れ去ってゆくのだと思う。むしろ、

 そうあってほしいのかもしれないな。

 こんな気持ちになるくらいなら信仰する

 べきではなかったなどというありきたり

 な感情も、それでもすくわれた事実は

 いつまでも存在しているのだから致し方

 なかった。世界は在るべくして在る。

 君もわたしも。

 

 ただいまは、すこしのかなしみとさみ

 しさに目を瞑れないまま、夜をふかし

 ている。